ペットロスエッセイ
ペットロスエッセイ


第3回「ペットロス」エッセイコンテスト
入選・特別賞

― 入選 特別賞 ―

「大切な後悔」

東京都西東京市
京田 加奈子 (きょうでん かなこ) 14歳

ペットロス、と聞いて真っ先に思い出されるのは小学生のときに飼っていたりんのことだ。生きものの死には何度も触れあってきたが、りんの場合は事情が違った。

りんは近所のペットショップにいた。何匹ものハムスターの中で、母がりんに一目惚れをしてかってきたのだった。

りんという名前は私がつけた。短くて呼びやすく、呼びやすい名前を選んだ。

りんは白い上に丸々と太っていて、大福にそっくりだった。とてもおっとりしていて、人を噛んだりすることは一度もなかった。

いつも寝てばかりいて、私が名前を呼ぶとティッシュや綿のつまった寝床から鼻をひょいと突き出し、そしてまたすぐにひっこんだ。ひまわりの種を差し出すと、それだけくわえてまたすぐに戻る。そんなりんが大好きだった。

りんが死んだのは、正確には私が殺してしまったのはりんがうちにきて一年半ほどたった日のことであった。その日はちょうど休日で、私はりんを外に出して遊ばせていた。外といっても室内の床を歩かせるだけである。

のんびり屋のりんはとくにどこに隠れようともせず、開けっ放しのドアの周りをうろうろしていた。このときいけなかったのはドアでもなく、りんでもない。不注意に閉めてしまった私だ。あの時私がもう少し考えて、少しでも足下の小さなりんに目を向けていれば……。私は勢いよくドアを閉めた。が、うまく閉まらず、やっと床に目を向けた。

一瞬、声が出なくなった。

その時のりんを今でも覚えている。急いでドアを開け拾い上げたがすでに息はなくなっていた。あまりにもあっさりと、りんの命は途切れた。頭が真っ白になって、大声で母を呼んだ。

さっきまで、あんなに元気だったりんが、私のせいで死んだ。手の中のりんはまだあたたかく、首まわりが血濡れ、口と目を開いていた。

私が、殺したんだ。

そうわかったとたん、どうしようもない気持ちがこみあげてきた。なんて自分はひどいことをしたのだろう。

りんは、もう動かない。どんなに名前を呼んでも、りんはもう動かない。あの生きているりんにはもう会えないのだ。私は、りんの体をなでながら泣きじゃくった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

私は何度も繰り返した。あやまることしかできなかった。

りんは、私を許さないだろう。私は、りんに許されないだろう。一瞬の過ちを犯した自分が憎くてたまらなかった。りんが死んでしまったことと、自分が殺してしまったことに私は泣き続けた。

そのとき、母もいっしょに泣いていた。当然だろう。母も、りんのことが大好きだった。母はあやまり続ける私には何も言わなかった。ただ一言、

「もっと長生きできたのに」

と呟いただけであった。その言葉にまた、ショックを受けた。その時の母の顔は今でもはっきりと思い出せる。

その後も私はずっと泣きつづけていた。りんは、死んでしまった。どんなにあやまってもりんには届かない。それならせめて、りんのためにも泣いていたかった。涙なら、言葉よりりんに届きそうな気がした。

もし、ここで母が私を慰めたりしていたら、りんとの思い出や後悔はもっと薄くなっていたかもしれない。しかし、母はそうさせなかった。私をずっと、泣かせておいた。

死んでしまったものに、私達は何もできない。いくら願っても、生き返ったりはしない。だったらせめて、私はりんのことを忘れずにいたい。そして、泣いていたい。

無理して涙をこらえることはない。いなくなって悲しいのは、愛していたからだ。それを隠す必要など、どこにもない。

そして私は、この過ちを忘れない。もう二度と、繰り返さないために。私はずっと、後悔していく。

ペットロス。それは生き物と暮らす上で逃がれられない悲しみだ。私のように、後悔で終わる人もいるかもしれない。そんな悲しみや後悔も、思い出といっしょに大切にしてほしい。母はきっと、そう思って何も言わずにただ素直な気持ちだけを口にしたのだ。

大切なペットを失ったときは、こらえたりせず泣くのが一番だ。と、私は思う。その悲しみこそが、愛情なのだから。

りんは今でも、私の心の中で元気に遊んでいる。

私はりんが、大好きだ


《第3回コンテスト入賞作品一覧(4篇)

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