ペットロスエッセイ
ペットロスエッセイ


第1回「ペットロス」エッセイコンテスト
審査員推奨作品

― 審査員推奨作品 ―

「Fiona Noble 遠藤」

東京都
遠藤 香 (えんどう かおり) 34歳

今年の3月、わが家の愛猫、フィオーナが天国に召された。8歳だった。

フィオーナという名前は主人が大好きな作家レン・デイトンの小説の主人公、女スパイから頂いてつけたもので、正式な名前はFiona Noble 遠藤。ミドルネームまである。

彼女は、スフィンクスという産毛しか生えていない、ETのモデルになったとされる珍しい品種の猫で、ちょっと変わった風貌であるが、その性格は、穏やかで愛情深く一度知ったらメロメロにならずには居られないと言われている猫である。

わが家のフィオーナ、通称フィちゃんも、わが家のストーカーと呼ばれるほどいつも私にべったりで夜は腕枕で眠り、お客さんには人懐っこく、投げたボールは咥えて取ってくるという芸達者ぶりで、私たちを愛してくれた。

フィオーナ

そんな彼女が病に倒れたのは、今年の一月だった。優しい先生方に最善の治療を施していただいたものの、心筋梗塞という猫には珍しい病気で、3月25日、フィちゃんは天国に召された。

もっと早くに気づいてあげてれば治ったのかな、
もっと美味しいものを食べさせてあげればよかった、
看病疲れでイライラしたときもあったな、亡くなる日の朝、もう一回ぎゅっと抱きしめればよかった。

後悔はいくつもいくつも脳裏を過ぎり、哀しみと喪失感が胸を押しつぶす。

泣く毎日。

そんな悲しい出来事の中で、非常に驚くことがあった。主人のあまりの衰弱振りである。

主人は仕事人間で非常にクール、時に感情を消して前に進むタイプでいつも一つ壁の向こう側に居るような感じがしていた。その強さに惹かれつつも寂しいと思うことが多々あった。

その主人が、「フィちゃんのこと、後悔してる」と言ったのだ。絶対に後悔と言う言葉を口にしない主人が、もっと出来る事があったのではとわんわん泣いたのである。私は、哀しみに打ちのめされながらも、その時なんだか嬉しくて、ホッとしたのを覚えている。

心の中で、この人のことは大好きだけど、まだまだ子供は作る気にはなれない、この人の頭の中は仕事のことでいっぱいだから。そう思っていた私は、思いがけず主人の強く他を欲する気持ちに触れて、その人間らしさに暖かい気持ちになったのである。

そんな私たち夫婦は、お別れの夜、亡くなったフィちゃんに服を着せて、フィちゃんを真ん中に一つの布団に入り一緒に眠った。

あれから私たちは、今もフィオーナに会いたくて会いたくてしょうがないけれど、でも励ましあい、慰めあいながら毎日過ごしている。

そして、わが家は少し変わった。今、夫婦で向き合い、子供を、新しい家族を作ろうとしているのだ。最初は、ただ可愛いからと飼い始めたネコであったのが、いつのまにか、なくてはならない大事な存在となり、愛情という感情を私たちに教えてくれ、まだまだ独身気分の抜けないふたりを家族にしてくれたのだ。

人は痛い思いや、後悔をして成長するのかな。

フィオーナを失った悲しみはずっと消えない、でもフィオーナに教えられたことを大事にしてこれからも一生懸命生きていこう。

フィちゃん、本当にありがとう、愛しているよ。

フィオーナ

《第1回コンテスト推奨作品一覧(6篇)

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