ペットロスエッセイ
ペットロスエッセイ


第2回「ペットロス」エッセイコンテスト
特選作品

― 特選作品 ―

「チャイコからのメッセージ」

福岡県福岡市
坂本 奈緒実 (さかもと なおみ) 39歳

『チャイコへ

げんきにしていますか? てんごくはさびしくないですか? おともだちはできましたか?

おねえちゃんはチャイコがいなくなってから、さびしいです。おかあさんが「てんごくにいくと、チャイコがげんきになってしあわせだからしんぱいしなくていいよ」っていうけど、ほんとう? チャイコがだいすきだったカリカリ、まいにちもってくるね。

さおりおねえちゃんより』

夕方、私が散歩していると、文字が書いてある二つ折りの紙が道路に落ちていた。つい、中身を読んでみた。文章から察するに、最愛のペットを亡くした小学校低学年くらいの女の子だろうか?

丁寧に書かれた文字をゆっくり読むと、胸がいっぱいになった。これは、天国のチャイコに対して書かれた、さおりお姉ちゃんからのメッセージである。帰郷をした時の、田舎道を散歩している途中の出来事だった。

道の片方は海が一面に広がり、もう片方はミカンの木がかなり上まで並ぶミカン山だ。ミカン畑の方に目をやると、一本のみかんの木の下にかまぼこ板くらいの大きさの木片が立っていた。「チャイコのはか」と書かれてある。その木片の前にはペット用のお水と猫のエサであるカリカリが入っていた。この手紙はどうもそこから風に乗って道路に飛んできたらしい。私はチャイコのお墓にそっと手を合わせると、手紙の上に重石を置き、その場を去った。

家に帰り、母にそのことを話したくなった。実家にも猫が2匹いる。ペットといえど大切な家族である。実家の母は過去、猫のトラが事故で死んだとき、ショックのあまり1日寝込んでしまった。

「さおりちゃんっていう子、まだまだチャイコのことが心配なんだろうね。病気か何かで死んじゃったのかね? 多分、ショックが大きかったんだろうね。さおりちゃんが早く元気になってくれたらいいねぇ」

と母が言った。

私は、その夜なかなか寝付けなかった。さおりちゃんの手紙のことやトラが死んだときのことを思い出したからだ。実家のトラが事故に遭ったとき、私は結婚して県外にいたので身動きが取れなかった。ただ、実家を出る前までは寝食共にしていたので、母には内緒にしていたが、ショックのあまり仕事を休み家で泣きながらトラの思い出に浸っていた。そんなことがあったので、さおりちゃんの心の痛みが手に取るように分かり、何とかできないものか? と考え込んでしまった。

『だいすきなさおりおねえちゃんへ

いつもおてがみとカリカリありがとう。てんごくではおともだちがたくさんできました。まいにちしあわせでとてもげんきです。てんごくはだいすきなカリカリもあるから、だいじょうぶだよ。あんまりしんぱいしないでね。

このおてがみはてんしさんにおねがいしてかいてもらいました。いちどしかおてがみをあげられないけど、だいすきなさおりおねえちゃんのこと、ずっとずっとてんごくからみまもっています。

チャイコより』

私は白い便箋に少し大きめのキレイな文字で手紙を書くと、淡いピンクの封筒に入れて、表に「さおりおねえちゃんへ」と書いた。

いつもの散歩道。チャイコのお墓の前に行き、ちょっとだけ手を合わせると、さわやかな風が吹いた。何だかチャイコが、私がこれからしようとすることを許してくれたような気がした。私は周りに誰もいないことを確認すると、ピンクの封筒に入ったチャイコになりすました手紙を、この間拾ったさおりちゃんの手紙の上に置いた。私のやることがいいことなのか余計なことなのかは分からなかったが、ただ、ただ、さおりちゃんが元気になって幸せになってほしかった。

後日、散歩をしているとチャイコのお墓の手紙がなくなっていた。きっとあの手紙はさおりちゃんに届いただろう。あの手紙を見て、さおりちゃんは喜んでくれただろうか?お母さんは変なイタズラだと誤解しなかっただろうか?色んな思いが頭の中を駆け抜けた。

私はくるりと体の向きを変えると、夕日が沈む海に、「さおりちゃんが幸せになりますように・・・・・」

と、心から願った。


《第2回コンテスト入賞作品一覧(6篇)

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